OpenStreetMap

OSM日本コミュニティでは、Plateau建物データのインポートを行うかどうかについて、議論を行ってきました。 user:nyampireは、コミュニティの意見を広く集めるためにアンケートを行い、その結果を公開しました。

全体的な結果についてはOSM wikiに記載されていますが、ここではその結果を少し深堀りしてみたいと思います。

反対・懸念表明の割合

アンケートのなかで、明確な反対、あるいは一定程度の懸念を表明している割合は、以下のとおりです。

票数 回答
4 条件付きで賛成
1 GMLファイルをOSMファイルに変換するcitygml-osmの仕様についてより煮詰め、かつOSM関係者に説明することを条件に賛成
6 タイムスタンプは活用すべきである。ソースの写真が古いというのは些細な事。むしろ新しい建築物がインポートで消える方が大ごとです。
4 第1バッチをさらに分割し、ナレッジを蓄積しながら第1バッチを段階的に実施するなら賛成する。
1 反対

合計16回答(全75回答, 21.3%)

今回は、これらの方々の属性や意見をもとに、簡単な分析をしてみたいと思います。

マッピング経験年数

反対・懸念を表明しているかたのペルソナを推測するべく、まずはマッピング経験年数から見てみましょう。

票数 割合 アンケート全体の割合 回答
3 19% 20.8% 10年以上
7 44% 29.2% 5年以上10年未満
3 19% 34.7% 1年以上5年未満
2 13% 9.7% 6ヶ月~1年未満
1 6% 5.6% 6ヶ月未満

Q5. 全体傾向

全体傾向と比較して、“5年以上10年未満”の方が多く(29% -> 44%)、 “1年以上5年未満”のかたが少ないことが見て取れます。(34% -> 19%) 10年以上などその他の選択肢は5%程度の違いであり、概ね許容誤差程度の範囲ですので、有意とは言えないでしょう。

5年以上10年未満といえば、だいたい2012年〜2017年頃になります。 これは東日本大震災が発生し、Yahoo!Japanデータインポートが一段落(2015年)した頃にスタートした方、ということです。 インポートによって作成された品質の低い道路の修正や、その頃まだそこまで高品質ではなかった衛星写真を利用して地道に建物を描いてきた方、ということができるでしょう。

そうした方々が建物形状の入れ替えについてどのような印象を持っているか、割合をみてみましょう。

建物形状入れ替えへの反応

票数 割合 アンケート全体での割合 回答
2 12.5% 44.4% 積極的に賛成(入れ替えて欲しい)
8 50.0% 44.4% どちらかといえば賛成
4 25.0% 8.3% 形状の入れ替えはNG、新規形状の追加やタグの追加はOK
1 6.3% 1.4% どちらかといえば反対
1 6.3% 1.4% 積極的に反対(入れ替えは絶対NG)

Q3. 全体傾向

“積極的に賛成(入れ替えて欲しい)”というかたが有意に少ない(44% -> 12%)ことが見て取れます。 また、“形状の入れ替えはNG、新規形状の追加やタグの追加はOK”、のかたが多くなっています。(8% ->25%) 反対の理由のひとつとして、少なくとも形状の入れ替えには、大小なりの抵抗があるようです。

なおこの質問について、10年以上の経験を持った方(15名/75回答)を中心に見てみると、以下のような結果になります。

票数 割合 アンケート全体の割合 回答
6 40% 44.4% 積極的に賛成(入れ替えて欲しい)
7 46.7% 44.4% どちらかといえば賛成
2 13.3% 8.3% 形状の入れ替えはNG、新規形状の追加やタグの追加はOK
0 0 1.4% どちらかといえば反対
0 0 1.4% 積極的に反対(入れ替えは絶対NG)

概ね全体傾向と差異がありませんが、経験年数が長いマッパーは、全体的に賛成に寄った結果が得られていることが見て取れます。

では、懸念を示しているかたの建物形状が、実際に入れ替えとなった場合、モチベーションにどのような影響があるでしょうか。

モチベーションへの影響

票数 割合 アンケート全体の割合 回答
3 19% 23.6% モチベーションが上がる
3 19% 9.7% モチベーションが下がる
10 63% 66.7% モチベーションに変化はない

Q4. 全体傾向

モチベーションが上がる、あるいは変化がない、というかたの回答は、概ね許容誤差の範囲内で微減しています。 逆にその分、モチベーションが下がる、という回答の率が上がっています。(10% -> 19%) 19%は高い数字でははありませんが、決して、すべて無視してよい割合ではありません。

個人的には、“モチベーションへの変化がない”というかたが多いのが意外です。 インポートの対象地域が、自分の作業している地域ではない場所なのかもしれない、という仮説が生まれます。

住んでいる地域と参加意欲について

では、インポート地域に住んでいるのか、そして積極的な参加を検討しているか、回答をみてみましょう。

票数 割合 アンケート全体の割合 回答
2 13% 22.7% インポート対象地域あるいは近隣に住んでおり、参加してみたい
3 19% 14.7% インポート対象地域あるいは近隣に住んでいるが、参加したくない
4 25% 22.7% 住んでいる地域がインポート対象地域と離れているが、参加してみたい
7 44% 40% 住んでいる地域がインポート対象地域と離れており、参加したくない

Q8. 全体傾向

住んでおり、参加してみたい、というかたが少ない(22%-> 13%)ことが見て取れます。 逆に、住んでいるが参加したくない、というかたが5%程度増えており、参加自体に消極的であることが見て取れます。 また、住んでいる地域が離れている傾向がややある(63% <-> 69%)のですが、そこまで有意な差ではなさそうです。

インポート作業の内容把握率

では、参加に消極的な理由を探る端緒とするべく、現在公開されている文章などをどのくらい把握されているか、みてみましょう。

票数 割合 アンケート全体の割合 回答
8 50% 68.1% OSM wikiページやTalk-jaを読んで、内容を理解した
6 38% 26.4% OSM wikiページやTalk-jaを読んだが、よくわからない箇所がある
2 13% 4.2% OSM wikiページやTalk-jaを読んだが、さっぱりわからない
0 0% 1.4% OSM wikiページやTalk-jaを読もうと思うが、断念した

Q1. 全体傾向

内容を理解した、というかたが明確に下がり、また、その他の「よくわからない」という回答が有意に増えてます。

確かに、今回のインポートは用意されている文章も多く、比較的複雑な手順や処理が含まれます。文章を読んでもよくわからず、「なんかよくわからないことをされる」という反応になっているかもしれない、という仮説が生まれます。

加えて、全体的な傾向として、OSM日本のユーザは主に地元を中心に、サーベイや航空写真でマッピングしている傾向が多いことが判明しています。 「私ががんばって描いた私の地元に「よくわからないこと」をされる」 心理的にこれがかなりのダメージであることは、想像に難くありません。

どうするのがよいか

残念ながら、インポート自体への参加が消極的であるため、一緒に作業をすることで理解を得ることは少し難しそうです。

また、解説のためのドキュメントを用意しても、それを読み解くのもかなり難しいことが想定されます。 過去の議論などから、手順レクチャー講習会やハンズオンの実施、説明会の開催などが挙げられていましたが、それらに参加してくれるかどうか、ちょっと疑問です。(もちろん、作業に参加を希望されるかたのために、これらの活動は行います)

むしろ、インポートの作業影響が少ない地域を優先して(慎重に)作業し、インポート後の姿を具体的にイメージしてもらうことが、予想以上に重要かもしれません。

もちろん、作業前に細かな通知を行うことで、いざ「自分の地元」が対象になるかどうかを知ることも重要でしょう。 Talk-jaやSNS、あるいはメッセージ等で通知を行うことは有用そうです。

そして、他にもたぶん、反対されるかたの心理的な障壁を和らげ、モチベーションを下げずにインポートを行うための施策は、多く存在すると思われます。 マッパーは人間ですし、心理的なものが、ひとつの施策で変わることは稀でしょう。 愚直に少しずつ、実績を作る必要を感じます。 幸いなことに、多くのマッパーがインポート作業の実施には賛成してくれています。その人達の気持ちも、無駄にはできません。

今後、道路や建物が描かれた地域であっても、マッパーの活動は常に必要とされ続けます。 建物の建て代わり、POIの追加、緑地や河川、田んぼに畑の追加、それらすべてに対する細かな属性の付与、それら全てに、マッパーの活動が必要です。

楽しみましょう!

Discussion

Comment from K_Sakanoshita on 26 May 2022 at 15:27

どうもインポートが「正解」で、その正しさを理解していない古参マッパーを「どう説得するか」に焦点が当てられている文章であると思います(特に「どうするのがよいか」の部分で感じます)。

私自身は、そもそもOSM向けに作られていないデータを「作った本人以外」がデータをインポートする行為そのものが少なくとも「正解では無い」と考えています(オープン≠闇鍋。ライセンス以外にもルールや文化がある)。

でも、上記のインポートは過去(特に黎明期)に良く行われていたので、インポート推進派はそもそも違和感を感じない(逆に何がおかしいか悩む)のでは無いかと考えています。

ただ、上記の全体的な話とは別に、各地のマッパーが「インポートしたい」と言うなら、その地域はそのマッパーがインポートすればよいと考えています(その地域の話であるので)。

つまり、今回のインポートについては全体的な話ではなく、局地的なマッパーによるマッピング作業の効率化の立ち位置に収めるのが良いと考えています。

そして、今後のデータ更新について、10年後、20年後もPlateauのデータを「作った本人以外」がインポートし続けるか、それとも協力体制を築くかなど、将来的なあるべき姿(ビジョン)を話し合うことこそが、私は重要だと考えます(実現出来るかはともかく、理想を話し合うという意味)。

Comment from nyampire on 30 May 2022 at 02:31

フィードバックありがとうございます。

インポートが「正解」

Talk-jaなどで何度も表明している通り、インポートデータが常に正しいとは、僕は全く思っていません。

ただ、有用なツールの1つであって、排除するには惜しいものだと考えています。 そして、データは利用しないと古びて、現実から乖離してゆきます。新鮮なうちに利用したいな、と思っています。

コメントを読んで、「その地域(データ)の主導権」という概念に至りました。

インポートデータで常に上書きされることで、一般ユーザがその地域のなにかしら地物の優先権が失われる、というように、マッパーの参加が排除されるかもしれない、という懸念です。(ローソンデータ利用のときにも出てきました)

自分の描いたものが誰かによって上書きされるのはOSMでは自然なことのはずですが、機械的に排除されるかもしれない、というのは脅威かもしれません。

今後のデータ更新について

はい、大切な観点だと思います。

僕は、Plateauのデータは、今後ほとんど更新されない(属性の追加はたくさんあると思う)と思っています。

なので、主導権は常にマッパー側が握っている、という状態に変わりなく、Plateauデータで強制的に上書きを続ける未来は、あまり現実的には無いのではないかと思っています。

どこかで話し合いの場があるとよさそうですね。

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